大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2757号 判決 1961年10月11日

控訴人 被告 国 代表者 法務大臣 植木庚子郎

指定代理人 広木重喜 外二名

被控訴人 原告 株式会社 吉野藤

訴訟代理人 吉田閑

主文

本件控訴を棄却する。

但し被控訴人の請求の減縮により、原判決主文第一項中年五分の割合による金員支払義務の起算点を昭和三三年五月一三日と変更する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述並びに証拠の関係は次に附加するほか原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

控訴代理人は、「(一)被控訴人の後記(1) の請求の減縮に異議はない。(二)被控訴人の後記(2) の主張事実中、被控訴人が八王子税務署長に対し、その主張の如き交付要求書を提出したこと、および東京国税局長に対し公売代金の交付を求めたことは認めるが、その他の事実は不知。(三)仮りに被控訴人が控訴人に対し、本件公売代金の返還請求権を有していたとしても、右請求権は旧国税徴収法第三一条の五および同条の六にいわゆる過誤納金に該当するから、会計法第三〇条により五年の消滅時効にかかるものというべきところ、被控訴人は、控訴人が本件公売代金の充当を終つた昭和二八年九月二八日以降五年間これが還付請求をなさず、漸く昭和三三年一二月四日本訴を提起したものであるから、右請求権は昭和二八年九月二九日から起算し満五年後である昭和三三年九月二八日限り時効により消滅したものであり、本訴請求は到底棄却を免れないものである。」と述べ、なお、末尾添付別紙準備書面記載のとおり陳述し、

被控訴代理人は、「(1) 本訴請求中、原判決主文第一項記載の年五分の割合による遅延損害金の請求はその一部を減縮し、被控訴人が東京国税局長に対し本件公売代金の交付請求をした日の翌日である昭和三三年五月一三日以降の分の支払を求める。(2) 被控訴人は、本件建物が公売されることになつたので、昭和二八年四月二五日付で八王子税務署長に対し、本件抵当権の支払を求める交付要求書と題する書面を提出し、次いで間もなく、東京国税局長に対し、公正証書をもつて自己の抵当債権を証明し公売代金の交付を求めた。(3) 控訴人の時効の抗弁について。被控訴人の本訴請求は、民法による不当利得返還の請求であつて、旧国税徴収法第三一条の五および六にいわゆる過誤納金等の還付請求ではないから、これについては会計法第三〇条の適用はなく、控訴人の消滅時効の抗弁は理由のないものである。仮りに本件請求権については会計法第三〇条の適用があるとしても、被控訴人は昭和三三年五月一二日付で東京国税局長に対し過払金返還請求書を提出して本件公売代金の交付を請求し、右書面は同日同国税局長に到達したから、消滅時効はこれにより中断されたものである。」と述べた。

当審における新たな証拠として、被控訴代理人は甲第四号証、同第五号証の一ないし四を提出し、控訴代理人は甲第四号証、同第五号証の一、二、三の成立を認め、同第五号証の四の成立は不知と述べた。

理由

(一)  成立に争のない甲第一号証、同第五号証の二によれば、被控訴人は昭和二六年三月一二日訴外有限会社玉屋旅館(以下単に玉屋旅館という)に対し、金六二〇万円を弁済期同年一二月三〇日の定めで貸与し、同日これが担保として、玉屋旅館からその所有にかかる原判決末尾添付目録記載の本件建物について抵当権の設定を受け、同年三月一四日その登記を経由したことが認められる。(右登記経由の事実は当事者に争がない)。

(二)  次いで玉屋旅館は昭和二八年二月二五日本件建物を訴外塚本元市に売り渡し、同日同訴外人のため所有権移転登記を経由したこと、控訴人を代表する東京国税局長は同年同月二六日右塚本元市に対する国税滞納処分として本件建物を差し押え、続いてこれを公売処分に付し同年九月一二日被控訴人に対し公売代金五〇〇万円で売却する旨の決定をなし、右決定に基き当時被控訴人が右五〇〇万円を納付したことは、当事者間に争がない。

しかして右公売代金の配分充当については、同年九月二八日東京国税局長が被控訴人に対し前記抵当債権の弁済として金三七九万七、九九二円を交付したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三号証および弁論の全趣旨によれば、残金一二〇万二、〇〇八円については、同日東京国税局長が内金一〇〇万四、八二〇円を前記塚本元市の滞納国税一〇〇万四、七二五円および滞納処分費九五円に充当し、残金一九万七、一八八円を訴外八王子市の交付要求に基き、同人の滞納市税分として同市に交付したことが認められる。

(三)  被控訴人は、「被控訴人の前記抵当債権は国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号による改正前のもの、以下単に法という)第三条により国税に優先するのであるから、前記公売代金五〇〇万円は、先ずこれを被控訴人の前記六二〇万円の抵当債権の弁済に充当すべきである。しかるに東京国税局長が前記の如く内金一〇〇万四、七二五円を塚本元市の滞納国税に充当したのは法第三条の解釈適用を誤まつたもので、これにより控訴人は被控訴人の損失において右金員を不当に利得したものである」旨主張する。(なお原審において被控訴人は、右公売代金中、東京国税局長が滞納処分費に充当した九五円および滞納市税分として八王子市に交付した一九万七、一八八円についても控訴人に対し、不当利得として返還の請求をなしたが棄却されたところ、この部分は、被控訴人からの不服申立がないから、当審において審判すべき限りではない)。

そこで先ず被控訴人の抵当債権と前記塚本元市に対する控訴人の国税債権との優先劣後の関係につき考察するに、本件の如く抵当物件が抵当権設定后第三者に譲渡され、右譲受人の国税債権に基き滞納処分が行われる場合においても法第三条は、その適用があるものと解すべきであり、この場合、その抵当権の設定が同条にいう「国税ノ納期限ヨリ一箇年前ニ在ルコト」の要件を具備するかどうかの判定に当つては、抵当物件の譲受人の納税義務を基準とすべきではなく、抵当権設定者の納税義務を基準とすべきものであると解するのが相当である。(最高裁判所昭和三二年一月一六日言渡判決、民集一一巻一頁、並びに当裁判所昭和三五年一月二七日言渡判決、高裁判例集一三巻一号四四頁参照)。したがつて、本件において前記法第三条の規定を適用するに当り、抵当権の設定が同条所定の「国税ノ納期限ヨリ一箇年前ニ在ルコト」の要件の存否は、当初の抵当権設定者である玉屋旅館の納税義務を基準として判定すべきであり、したがつて被控訴人において、本件抵当権の設定が玉屋旅館の国税の納期限より一箇年前にあることを公正証書をもつて証明したときは、本件建物の価格の範囲において被控訴人の抵当債権は国税債権に優先することになるわけである。ところで本件抵当権設定者である玉屋旅館においては、本件抵当権設定当時はもちろん、その后一年内に国税を滞納した事実がなかつたことは当事者間に争がなく、かつ成立に争のない甲第一号証、同第四号証、同第五号証の二、三および弁論の全趣旨によれば、被控訴人は本件滞納処分に当り、当該収税官吏に対し、証憑書類(国税徴収法施行規則第一二条第三項参照)を添えて右抵当債権の存在を証明しその支払を求めた事実が推知できるから、右事実関係の下においては、本件建物の抵当権者である被控訴人の前記六二〇万円の債権は、前段説示の理由に照らし、控訴人の塚本元市に対する国税債権に優先する関係にあつたものというべく、したがつて東京国税局長が本件建物の公売処分による売得金中、一〇〇万四、七二五円を前示の如く塚本元市の滞納国税に充当したのは失当であつて、右金員は本来、国税徴収法第二八条第二項但書により、抵当権者である被控訴人に交付さるべき筋合であつたものといわなければならない。

(四)  控訴人は、「たとえ右充当が法律上失当であつたとしても、元来、充当行為は法律二八条に基く行政処分であり、したがつて控訴人が前示の如く公売代金中一〇〇万四、七二五円を滞納国税に充当したのは公定力のある行政行為に基くものであつて、これを不当利得と認めることはできないものである。」旨主張する。しかしながら、法第二八条の充当配分に当つては、税務官庁は、実体法上の権利関係を確定し得るものと解すべき根拠は存しないから、法律上抵当権者に配当すべき金員を誤つて滞納国税に充当した場合においては、たとえ右充当配分により滞納処分手続が終了し、かつ再調査、審査手続または訴訟によりこれが取消変更を求め得べき期間が徒過したとしても、これがため抵当権者の実体上の権利関係に消長を及ぼすべきいわれはなく、結局、右の場合国家の充当行為があつたというだけでは、国庫が実質上その利益を保有し得べき根拠とはなり得ないから、国庫は民法第七〇三条の規定に従い、本来配当を受ける権利のあつた抵当権者に対し、右利益を返還すべき義務があるものと解するのが相当である。(前掲昭和三五年一月二七日言渡の当裁判所判決参照)。されば控訴人は、本件公売代金中、前記滞納国税に充当した一〇〇万四、七二五円については、被控訴人に対しこれを不当利得として返還すべき義務を負担したものというべきであり、これと見解を異にする控訴人の前掲主張は採用し難い。

(五)  次に控訴人の時効の抗弁につき判断する。控訴人の援用にかかる会計法第三〇条は、金銭の給付を目的とする公法上の債権債務につき、その消滅時効の期間を定めた特別規定に外ならないのである。ところで公法上の行為に由来する不当利得の返還請求権が公権であるか私権であるかについては学説上争の存するところであるが、被控訴人の主張する本件不当利得返還請求権は民法第七〇三条に基く民法上の権利であると解するのが相当であり、したがつて、これについては右会計法第三〇条の適用はなく、その消滅時効の期間は民法第一六七条第一項により一〇年であると解するを相当とする。しからば本件につき会計法第三〇条の適用のあることを前提とする控訴人の時効の抗弁は採用できない。

(六)  以上の次第であるから、控訴人は被控訴人に対し、前示不当利得金一〇〇万四、七二五円およびこれに対する被控訴人が東京国税局長に対し右金員の支払を求めた日の翌日であることが当事者間に争のない昭和三三年五月一三日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるものといわなければならない。されば控訴人に対しこれが支払を求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却すべきである。

(但し、原判決主文第一項中、年五分の割合による金員の支払を命じた部分については、被控訴人が請求の一部を減縮したので、その起算点を昭和三三年五月一三日と変更する)。よつて控訴費用につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 牛山要 判事 田中盈 判事 土井王明)

控訴人の準備書面記載の主張

一、旧国税徴収法二八条の公売代金等の充当配分行為は行政処分である。

(1)  原判決は、この点に関し「公売代金の滞納処分費或は税金への充当とは、歳入、歳出外現金出納官吏が受領して保管中の現金を、国税局或は税務署の長等が、滞納処分又は交付要求に係る滞納処分費および税金として当てることを決定して国税収納官吏に収納させる行為に過ぎないものであり」、「単に既存の実体的法律関係に従つて、自ら執行者兼執行債権者という立場においてなすところの内部的事務の処理にすぎず、これによつて新たに私人に対して実体法的法律関係を形成することそれ自体を目的としてなされる行為ではないというべきである。いわば形式的には行政処分の形をとつているか、実質的な行政処分とはいえないものである。」と判示される。しかしながら、原判決のこの見解は、旧国税徴収法(以下旧法という)二八条の公売代金等の充当配分行為の性質を正しく理解しているものということはできない。すなわち、同法条にいう充当配分行為とは、単に国税として収納することのみをいうのではなく、収納するための公売代金の配分行為をも包含するものである。詳言すれば、旧法下において、抵当権等の設定せられた財産を差押えたときは、収税官吏は、滞納処分費および税金額その他必要と認める事項を、その抵当権者等に通知する。すると、右抵当権者等で国税に優先権をもつものは、証憑書類を添えてその事実を証明し(旧法施行規則一二条一項、三項)、この証明ができた者について、当該差押物件の価額を限度としてその債権者が先取できることとなる。ところが、どの抵当権者が国税に真に優先できるものかどうか、その優先がどの金額、範囲であるかについては、収税官吏が調査確認し、これを認定することによつて、それへの公売代金の配分関係が具体的にきまるものであり、故に優先劣後の認定、これにもとずく公売代金等の配分は収税官吏が滞納処分手続の一環としてこれを行い、それにしたがつて、国税への収税、抵当権者等への交付がなされ、その限度で租税債権の消滅、抵当権付債権の弁済の効果が生ずるわけである。

(2)  もつとも、右優先劣後の順位および範囲等については、同法三条、二八条等の規定が設けられ、これにしたがつて優先劣後の認定と各配分額の決定がなさるべきことはいうまでもない。したがつて、収税官吏が、公売により取得した代金等について、このうちいくらの金額を次の順位、すなわち、1、滞納処分費への充当、2、法三条の規定に該当する質権者または抵当権者への交付、3、滞納税金額への充当、4、2に掲げる以外の質権者または抵当権者への交付、5、滞納者への交付にいかに配分するかは、いわゆる覊束行為に属し、確認的性質の処分であるけれども、かような性質をもつ行政上の行為がその故に行政処分たり得ないという理はなく、それが滞納処分手続の一環としてなされる行政行為である以上、終局的には司法の判断に服せしめられながらも、滞納処分手続遂行上の法律関係を決定する役割をもつものと解すべきであつて、もしそうでないとすると行政手続は法的に甚だ不安定なものとなり制度本来の趣旨が貫かれないこととなるのである。すなわち、公売代金等は、歳出入外現金出納官吏が一旦これを取得しても、まだそのうちのいずれの額がどの債権者に帰属するものかはきまつておらず、そこで、収税官吏は租税債権に関してはいわば自力執行吏として、他の利害関係人との関係においては、いわば配当者的立場において、各々の取分、すなわち、配分額を決定する。そして同時に滞納国税に充当することによつて、租税債権を消滅せしめるとともに、抵当権者等が右交付金額を受取れば、その限度で抵当権付債権は弁済消滅するに至る。かくて、差押にはじまる滞納処分手続は完結することとなるのである。換言すれば多くの行政処分により構成される一連の手続たる滞納処分手続の終局目的たる租税債権への充当(及び抵当権付債権への配分)という最終的行為が何んらの法効果を伴わないもの、すなわち行政処分でないものと解するのは制度自体として首尾一貫を欠き甚だ不合理な解釈といわなければならない。されば、もし滞納者や抵当権者や質権者たるものが、自らへの配分交付が正当でなく、国税への充当配分が誤つていると主張するなら、速かに右配分充当行為に異議を述べ、これが配分行為の是正を求むべきである。法は、このことを予測して、旧法施行規則三〇条で、滞納者への計算書の交付を定めるとともに、抵当権者等利害関係人の計算記録閲覧権を認め、他方、同法三一条の二以下において、右充当配分行為を再調査、審査請求の対象たらしめているのである(なお、新国税徴収法においても、同法一二八条以下、施行令四八条以下において換価代金等の配当について詳細な手続を明規するとともに、一六六条以下で、再調査、審査および訴訟によりその適否を争いうるものとし、特に手続の迅速な安定をはかるため、同一七一条で、これらの不服申立期間を短縮している。ちなみに換価代金等の配当については同条一項四号により、換価代金等の交付期日までと定めている)。かように充当配分行為をこの再調査請求または審査請求の対象としたことはい原判決のいう如く「単に行政手続によつて関係者の異議を簡易迅速に解決させるためのものにすぎない」のではなく、差押、公売、租税債権の満足という一連の滞納処分手続の目的を、自力執行的に達成せしむるとともに、これに附随して諸利害関係人の債権の取立に資せんとするものに外ならず、それはこの配分充当行為がまさしく右手続上の一つの行政処分であることを明らかに示しているものといわねばならない。

(3)  しかるに原判決は、「形式的には行政処分の形をとつているが、実質的な意味で行政処分といえない」といわれる。しかし、もし、右充当行為が行政処分でなく、何んらの法的効果を伴わないものとすると行政手続上において租税債権への充当とその消滅(及び各債権者への配分)は法的には決定せず、何時までも未確定のまま放置することとなる。これは行政手続における法的安定の必要性を無視する不合理な解釈といわざるを得ない。されば、滞納処分手続における公売代金の充当配分行為は、一種の公定力をもつた行政処分として観念すべきものであつて、これを手続的にいえば、滞納処分手続の最終段階において、自力執行の目的を達成終結させるとともに利害関係人の債権取立に資する行為であり、更に実質的には利害関係人の優先劣後性を具体的に判断し配当の順位、金額を決定し、これに基づく充当交付を行うことにより、租税債権の消滅その他の法律効果を生ぜしめんとするものである。したがつて、この判定に誤りがあり、国を含め利害関係人間に不当な配分が行われたというのなら、この充当配分行為の取消を求め、その間の不当な配分関係を是正すべきものといわねばならない。さればこそ、前述したように、新旧両法の国税徴収法において、再調査請求、審査請求、訴訟(抗告訴訟)が認められており、法は、これをもつて、優先権者の優先性を保護救済するに十分なものとしているのであつて、この外に、原判決がいう如く、民事訴訟による是正救済をまたねば、これが保護救済を欠くということは、その優先性(あくまでも、優先性の点のみであつて、債権そのものには何らの関係がないこと)を保護するのあまり、滞納処分の迅速なる執行とこれに基づく法関係の安定、ひいては租税歳入の確保という公目的を軽視することとなるであろう。

二、公売代金返還請求権は公法上の債権として、会計法三〇条後段による五年間の消滅時効にかかるものというべきである。

公売代金等が滞納者の滞納税金に充当されると、前述の如く当該租税債権は消滅するが、国庫に収納された右金員は、「国税収納金整理資金に関する法律」(昭和二九年三月三一日法律第三六号)五条にもとずき、国税収納金整理資金に受け入れられ、大蔵大臣の定めるところにより毎月一定の概算額毎に、当該年度の一般会計または特別会計の歳入に組み入れられる。すなわち滞納処分による収納金は、他の納税者によつて納付された国税、(自主納付の分も、賦課処分により納付された分も含む)とともに、一旦国税収納金整理資金に受けられ、租税歳入という国庫(財政)の基幹に組み入れられる仕組となつているのである。そして、賦課処分が取消されたりその他、納税者に対し、過誤納金の還付をなすべき場合には、国税資金支払命令官が、その還付金額および還付加算金額等を支払決定し、この分を控除した額を前述の如く一般会計または特別会計の歳入に組み入れるのである。(同法一〇条、一三条参照)。したがつて、公売代金等で一旦滞納者の租税債権に充当収納されたものについては、国家財政の、重要な財源となるものであるから、これが還付についても、他の国の民事上の債権債務とは異つた公的性質を有するものといわねばならない。このことは、かかる還付金については、日歩三銭の割合による還付加算金を付して還付することとなつており、この点は、利子税(所得税法五四条、五五条、法人税法四二条、等)の日歩三銭と同一割合とされている。しかもこの還付返還請求については、不当利得返還請求の場合の如く善意、悪意をとうものではなく、新法一六四条(旧法三一条ノ六)により、「その過誤納金が納付された日の翌日から税務署長等が還付のため支払決定をした日または充当をした日までの期間」に応ずる旨を定めている。故に、公売代金等が公売処分の無効により還付さるべき場合には、自主納付にかかる過誤納金や、賦課処分の取消にもとずく過誤納金の還付の場合と同様、いずれも公法上の債権として、同法三〇条後段の時効(五年の消滅時効)の適用をうくべきものといわねばならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例